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ANIMO Blog

よしなしごとを、そこはかとなく書きつくる。

2024'04.28.Sun
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2013'04.22.Mon
欲求不満が大爆発(シャンクスおよび私の)


下の小話のさらに続編的な。

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月夜。岬にたたずむ細い背中。まるでデジャブだ、とシャンクスは笑う。
 
「よお、お嬢さん。なにか海に恨みでも?」
 
はじかれたように振り返った少女の髪が躍るのもあの夜のまま。
ただ、あの夜とは違い、既に少女は泣いていた。
 
「シャンクス、さん」
「ルフィのやつ、やっと寝たよ。あいつはまったく、うるさくてかなわねェ」
 
立ち尽くす少女の隣にどかりと腰かける。海から吹き上げる風にさらされる少女は、そのままどこかへ飛ばされてしまいそうに頼りない。
まあ座れよ、と右隣の地面をぱんぱんと叩けば、少女がおずおずと腰かけた。ああ、白いワンピースだから土の汚れが目立ってしまうかもしれない。けどまあ、いいか。今日だけ、今だけだ。
 
「初めて会ったのもここだったな。覚えてるか?」
「…はい」
「まあ、忘れられるわけねェか。ビックリさせちまっただろうしなァ」
 
華奢な腕が乱暴に涙をぬぐう。白い肌は月の光で輝くようだった。特別目を引く容姿ではないが、彼女のこういう部分的な魅力は心の隙間に押し入ってくるのだ。あの夜からずっと、少しずつ、浸食するように。
 
「海が嫌いか?」
「………」
「お嬢さんの故郷は、この海にはないのかもしれないが…」
 
少女の肩が震える。責めてしまっただろうか、そんなつもりはなかったのだが。
謝ろうとした矢先、彼女がかすかに言葉を発した。違います、と頼りない否定。
 
「確かに私の故郷はこの海にないけれど、今、海を見て考えていたのは、そういうことじゃなくて…」
 
膝を抱えた少女の瞳が、一度おさめた涙をたたえる。あ、まずいな、と思った。しかしそれは泣かせてしまったことに対する罪悪感ではない。
感じたのは危機感。
 
「…海は、恐ろしいところ、なんですね」
 
また、隙間に入り込んでくる感覚。
 
「そうだな」
「ルフィくんは、海賊になって海に出たいと言っていて…シャンクスさんは、海賊で、海を旅されていて…」
「ああ」
 
膝に顔を伏せてしまった彼女の、くぐもった声が呟くのだ。怖いと。
シャンクスは海に向けていた体を少女の方へ向けた。左手を伸ばす。闇に同化する黒い髪を指先ですいた。
 
「海に落ちて溺れるとか、そんなものじゃ、ないんですね」
「はははっ。ああ、そうだなァ」
「…危険な人がたくさんいて、危険な生き物も棲んでいて…なにが、起こるのか…なにが、起こっても…おかしくないんですね…っ」
 
顔を上げた少女の頬に手を添える。伝う涙の感触はない。その頬が発するであろう熱も感じない。うああ、と嗚咽が上がる。まるであの時のルフィだ、子供みたいに少女は泣く。
最早存在しない、おれにしか見えぬ幻の左手では涙を拭えない。それでもその涙がじわりとおれに浸透するのが分かった。やはり危険だ、この少女――いや女は。
 
「ご、ごめんなさい…、ごめんなさい…!」
「何を謝るんだ、お嬢さん。頼むから、そんなに泣かねェでくれ」
 
その言葉には真実と偽りがあった。
泣けばいいと思った。おれのためだというのなら。ぼろぼろになるまで。
だが、泣きやめとも思った。おれのために泣くこの女を、本当に手放せなくなる気がするから。
本当に、それこそ、嫌がってでも彼女が怖がる海へ連れ出してしまうほどに。
 
「…風で体が冷えたろう。帰ろう。な?」
 
頷きもなく、首を横に振る様子もない。シャンクスはやれやれと溜息を吐いて、幻ではない右手の方を少女へ伸ばした。
腕の上に腰かけさせるようして抱き上げる。驚いて涙が止まった様子の少女を見上げて笑った。
 
「お嬢さんを抱き上げるには、腕一本で十分さ」
 
そのまま歩き出す。バランスが悪いのか、彼女はシャンクスの頭にしがみついた。すぐに謝って、つかまり方に遠慮が出る。前さえ見えりゃ別に構わないが、と言えば少女は沈黙してからぎゅっとシャンクスの頭を抱えるように背中を丸めた。視界を邪魔しないように。
――船へ、攫おうか。そんな考えが一瞬首をもたげる。だがそれを実行するのは悪しきことだ、と冷静な自分が呟いていた。わかってるさ。
 
「…鍵、開けろ」
 
海から離れ、少女の家にたどり着く。促す声が意識せず低くなってしまったが、少女は特に不審に思わなかったのか言われるがまま玄関の鍵を開けた。
夜目はきく。そうでなくとも、もう何度か訪れて勝手は知る家の中を明かりも点けぬまま進み、少女の使うベッドにまで辿りつく。そこに少女を下ろして改めて正面からその顔を見れば、また泣いていた。
 
「泣くな」
 
危機感が。焦燥が。押し寄せる。
 
「すみま、せ」
「…謝って欲しいわけじゃ、ねえんだよ」
 
溜息を吐き、右手ではだけたシャツの襟を握りしめた。左肩を抜き、そこに巻かれた包帯すら取り去ってみせる。
瞠目した少女の視線が、先のない左腕に突き刺さった。治療を終えたばかりのそこは、正直見られたものじゃない。傷口には血が滲み、縫合糸が痛々しくむき出しになっている。
そうでなくとも、本来あるべきものが、今朝までは普通にあったそれが消えているという衝撃は、それが他人のものであったとしても大きいだろう。
だが少女は怯えや嫌悪というよりも悲しげに顔をゆがませた。恐る恐る伸ばされた指先が、左肩にそっと触れる。傷口の少し上あたりまでなぞるように手を滑らせて――堪えきれず、少女の体を右腕でベッドに倒した。
 
「シャン、クス、さん」
 
涙をためた瞳が真っ直ぐに見上げてくる。その視線に誘われるように、獣の前に頼りなくさらされる首に噛みついた。息をのむ音、体を固くする感触。耳のすぐ下まで舐め上げ、震える頬にしっかりと頬を寄せた。耳に息を吹き込むように名前を呼ぶ。
 
「っ、」
 
抵抗は、抵抗とも呼べぬほどかすかなものだった。
あるいは少女も望んでいるのか――いや、それは勝手すぎる解釈だな。
そうと知りつつ、獣は懐で守り続けた少女をその爪で裂き、牙で穿つことを決めたのだ。
 
 
 
 
 
「何をやらかしたんだ」
 
長年大事にかぶり続けてきた麦わらを少年に預けてしまい、甲板の隅で寂しくなった頭をかくシャンクスにベックマンが声をかける。
振り返った彼は、もう見えなくなった島の方角を見てうっすらと笑った。
 
「なーんもしてねェよ」
「…はあ」
 
ベックマンは深いため息を一つ吐いた。シャンクスはむっと眉を寄せる。副船長のくせに船長の言を信じないとは。
 
「なら、見送りに来てたお嬢さんの様子はなんだ」
 
また笑みが口元に浮かんだ。もう船に乗ってしまった後に、やっと港へ見送りに来た少女。彼女のあの目が脳裏によみがえる。
 
「ベック。おれの左手が最後に触った人間、誰だと思う?」
「は? 知るわけねェだろ…ルフィじゃねェのか」
 
お嬢さんさ。そう答えれば、ベックマンがほんの少し目を瞠った。
ルフィを抱えた山賊が逃げ出し、それを追っていた最中。飛びついてきた少女は泣いていた。ルフィくんが山賊に、彼らは海に、と。案内されるまま辿りついた港から、二人の乗る小舟が沖に見えた。
 
「ルフィくんを助けて、って泣いてなァ。だから、こう、抱きしめて」
「お頭…あのお嬢さんにセクハラが過ぎるんじゃねえェか?」
 
今さらだが、とぼやくベックマンに笑った。そんな忠告、本当に今さらだ。
 
「おれのせいじゃねえさ。お嬢さんが悪い」
「…なんて責任転嫁だよ。…しかし、あんたの入れ込みは相当に見えたな。正直、船に乗せるつもりなんじゃないかって噂が船員たちの間で立ってたくらいだ」
 
そんな噂が。眉を上げるシャンクスに、ベックマンは苦笑を浮かべた。ああなるほど。こいつもそう思ってた一人か――と察すると同時に、ベックマンでさえそう危惧するほどだったかと過去の自分を振り返る。
 
「お嬢さんは…あの女は、毒だよ」
 
低く、声を落とす。ベックマンは咥えていた煙草を指に挟んだ。
意味を問うようなことはしてこない。もしかすると、この男も感じていたのかもしれない。
シャンクスは、もはやない左腕を持ち上げた。ないはずの腕は、何故かまだそこにあるかのような錯覚がある。船医によれば、四肢を切断した患者にはよくあることらしい。いつかは消失するというが。――それでも、消えはしないと思うのだ。最後に触れた彼女の熱。指に絡む髪の細さ。皮膚に馴染んでゆくあたたかな涙の感触。
 
宝だと思った。いや、宝だった、確かに。だがそれは、同時に毒でもあったのだ。
得ればじわじわと身に染む毒。そうと知るのに離しがたい。男の身を滅ぼす女。
 
「乗せたら、あんたでも滅ぼされるか?」
 
茶化すように言うベックマンに肩をすくめて見せた。
どうだかなァそうかもなァ、とおどけて返せば、ベックマンは笑いながらその場を離れていく。
再び一人となったシャンクスは目を閉じた。
昨夜、岬に立つ少女の姿を見たときーー毒に身を侵されるも悪くはないと、一瞬でも思ってしまった自分がいる。故に、離すことを決めたのだ。放つことを、決めたのだ。
 
「悪いな、お嬢さん。おれはまだ、囚われるわけにはいかんのさ」
 
だからその代わりに、お前に楔を打ち込もう。
 
月明かりにも燃えるこの赤い髪を。獣の様だったろうこの目を。先の続かぬ左腕を。
不審でも恐怖でも憎悪でも構わない。刻みつけ、思い出せばいい。いつかまた出会う時があるならば、その時まで忘れるな。


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これ以上ないほどの完璧な終わり

お題サイト「不在証明」様

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自己紹介:
関東圏在住の看護学生。
好きなものはゲーム(特にRPG,SRPG)、漫画(ジャンプ系)、映画(邦画より洋画)。オヤジ好きで声フェチ。
最近は悟りを開き、趣味をオープンにしてます。
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