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ANIMO Blog

よしなしごとを、そこはかとなく書きつくる。

2024'04.28.Sun
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2013'04.22.Mon
サイトの方ではお久しぶりです…!
最近、なかなか思うように文章が書けないなぁ…と思っていたのですが、とりあえず書いてみねぇでスランプとか言ってられっか!と妄想の赴くままに短いお話を書いてみました。しかしまあ、アレです。お察しください。

以前書いたシャンクス短編の続き的なお話。よければ続きから、どうぞ!


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眠いのか、と耳元で声がした。
うつらうつらと揺れて閉ざされそうな視界のなかに、燃えるような赤い髪が見える。
 
「…シャンクスさん」
 
心もとない呂律でなんとか名前を呼べば、シャンクスが苦笑した。
少しだけ眠気が遠ざかる。周囲の喧騒が戻ってきた。目を覚まそうと首を振れば、シャンクスが指で髪をすくようにしながら、頭を撫でる。くすぐったさと恥ずかしさで身をよじった。
 
「おい、無理するなよ? 眠いなら寝ちまえ、家まで運んでやるから」
 
な?と屈託なく笑うシャンクスに、へらりと笑みを返す。
この人は本当にやさしい人だ。突然、知らない世界に飛ばされて心細かった私を、事情も知らないまま慰めてくれた。今も無理に話を聞き出しはせず、ただこうして気にかけてくれる。やさしい人。一緒にいると安心する。
 
「ありがとう。でも、ルフィくん、待つって約束したんです」
 
外はまだ日が暮れ始めた頃。昼過ぎ、友達と遊びに出ていったルフィは戻らない。
そうか、とシャンクスは頷いて酒を煽った。カウンターの中のマキノが、絶妙のタイミングでお代わりを注いでいく。もう何杯目だろうか。シャンクスの顔や首筋が、アルコールでほんのりと赤らんでいた。
じっと、上下する喉仏を見つめる。たくましい首。全体的に見て、筋骨隆々というわけではないけれど、あちらでよく見る中年男のように脂肪がついているなんてことは全然ない。なんともセクシーな人だよなあ、と眠気でぼやける頭で考えた。
くつくつ、と低く笑う声がする。はっとして喉仏から視線を持ち上げると、シャンクスがにやにやと笑っていた。
 
「どうした、お嬢さん」
「…す、すみません。なんでも…」
「匂いで酔ったか? 顔、赤いぜ」
 
伸びてきた左手が頬に触れる。優しくかすかに。そのくすぐったさに思わず身を固くすれば、シャンクスの目がさらに楽しげに細まった。
 
「やっぱ今日は、帰って寝ろ」
「だけど、ルフィくんと、ごはん…」
「ルフィにはおれから言っといてやるから」
 
な、と穏やかで静かな声が耳に心地よい。シャンクスの親指が頬骨を、中指が耳のふちをそろりと撫でた。耳のそばで、固い皮膚と柔らかい皮膚の擦れるかすかな音が響く。ざわっと背中を何かがのぼっていった。
不安になってシャンクスを見るが、彼の目は先ほどと変わらぬ楽しげなまま。マキノは他の客の相手。賑やかな彼の船員たちはこちらを見ていない。
耳をなぞる中指が、すっといたずらに首筋を撫で下ろした。ひ、と息をのんで固くなった肩を、シャンクスはぐいと引き寄せて立ち上がらせる。
 
「マキノさん、お嬢さんが寝ちまいそうだから家まで送ってくる。おれがいない間にルフィが来たら、よろしくな」
「あ、はい」
 
じゃあね、と笑顔で手を振るマキノに頭を下げて、そっと背中を押すシャンクスの手に促されて歩く。
転ぶなよ、と笑いながら足元を見ていたシャンクスがふと顔を上げた。視線の先には、騒ぎの中で一人静かに酒を飲む副船長――ベックマンの姿がある。
 
「…じゃあな。おやすみ、お嬢さん」
 
シャンクスに向けていた視線をそらし、そう低い声で呟く。強面の彼を最初は怖がっていたが、今はそうでもなかった。マキノにしたようにお辞儀をして、店を出る。
夕暮れの村は静かだった。人もまばら。そんな中を並んで歩く。
 
「昨日は夜更かしでもしてたのか?」
「夜更かし、というか…」
「夢見でも悪かった、とか?」
 
問いかけに対して言葉を濁せば、やはりシャンクスは追及してこなかった。
家に着き、ポケットから鍵を取り出す。それを取り上げてぱっと開錠したシャンクスが、ドアマンよろしく扉を開いて頭を下げた。
 
「どうぞ、お嬢さん」
「…ど、どうも」
 
恥ずかしいことをサラッとするものなのだろうか、この世界の人というのは。それともこの人が特別?
そんなことを考えつつ家に上がる。よければ飲み物でも、と振り返って提案すると、シャンクスはお言葉に甘えてと笑って玄関をくぐった。
 
「緑茶と、紅茶と…あと、冷蔵庫にオレンジジュースと…」
「じゃ、オレンジジュースもらえるか」
 
オレンジジュースなんて飲むんだ、と自分で提案しておいて意外に思いつつ、冷蔵庫を開ける。
…そこでふと思う。さっきまでお酒を飲んでいた人に、さらに飲み物を出すのってどうなんだろう。オレンジジュースの紙パックを片手に、ちょっと悩んで振り返る。
 
「あの、シャンクスさ」
 
手が滑った。あ、と思っても落ちるパックをキャッチすることもできず見送るしかない。
どぽ、ばしゃ、というちょっと間の抜けた音にこちらを見たシャンクスが目を丸くした。床に中身を吐き出し中の紙パックに苦笑を浮かべる。
 
「す、すみません」
「いや。やっぱ、お茶にしなくて正解だな」
「え」
 
よ、と軽い掛け声をしてオレンジジュースの川を飛び越えて来たシャンクスが、ぐっと右手で肩を抱き寄せ、左腕でひざ裏をすくい上げた。
 
「え、ちょ、」
「もうおやすみ、だ。お嬢さん」
「いえ、あのっ…!」
 
ひょい、と飛び越える振動に思わずシャンクスにつかまる。慌てて離れようとする体は彼の右手の力でたやすく阻まれた。
そのまま奥の部屋に運ばれる。横たえられたのはベッドの上。
意外なほど繊細な動きで、そっと体に布団がかけられる。ベッド横に膝をついたシャンクスが微笑みかけた。
 
「寝るまでおれがここにいる。悪い夢は見ねェから、安心しておやすみ」
 
左手が額を覆う。あたたかい手のひら。ゆっくりと頬に滑る。
この人の手は、安心と優しさを持っている。ぼんやりする目で彼の顔を見れば、一度潜んだかに思えた眠気が首をもたげた。
 
「ジュース…」
「オレンジの水たまりはおれがどうにかするさ」
 
だからおやすみ。頬の手のひらが今度は視界を覆い隠した。あたたかい闇に、意識が急速に沈んでいく。怖い夢を見ないだろうか。また、昨夜のような。
 
「大丈夫だ、お嬢さん」
 
おやすみ――。
その低い呟きはまるでおまじないのようだった。おやすみと呟かれるたび、どんどん眠りが近づいてくる。彼の言うように大丈夫、きっと悪い夢は見ない。
意識が眠りの底に沈みきる寸前、低く、喉の奥で笑う声が耳を撫でた気がした。悪い夢だろうか?いいえ、きっと違う。
だって隣には、やさしい人がいてくれるのだから。


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獅子の懐で穏やかに眠る兎

お題サイト「不在証明」様
 

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学生
趣味:
ゲーム
自己紹介:
関東圏在住の看護学生。
好きなものはゲーム(特にRPG,SRPG)、漫画(ジャンプ系)、映画(邦画より洋画)。オヤジ好きで声フェチ。
最近は悟りを開き、趣味をオープンにしてます。
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