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ANIMO Blog

よしなしごとを、そこはかとなく書きつくる。

2024'05.09.Thu
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2013'02.18.Mon
クルスニク兄弟にはぜひとも幸せに笑っていていただきたい。
…という願いとは裏腹に、暗いネタばかりが降りてきてしまうこのやるせなさ。

そんなわけでして、あんまり幸せじゃないルドガー短編です。


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目を覚ますと別世界だった。
そんな経験をした人間は、全世界にどれくらいいるのだろうか。ふと、そんな途方もないことを考えた。
実際のところなんて確かめる術もないけれど、きっとそんなには多くないだろうと思う。しかも、その別世界が、よく知ったゲームの世界でしたー、なんて。安っぽい小説みたいで、自分のことではあるけれど、思わず笑ってしまいそうになる。

「今日は、とてもいい天気でしたねえ」

考えを打ち切り、いまだ重苦しく続く沈黙を打破すべく、窓の外を見てそんなことを呟いた。差し込む夕陽。赤く照らされる彼は、視線を俯けたまま答えない。
どうしよう、すごく気まずい。部屋を訪ねてきたのを迎え入れてこの方、彼はずっとこんな調子だ。
まあ、仕方のないことだとは思うけれど――これ以上の沈黙にはちょっと耐えられそうになかったので、こちらから話を進めることにした。

「私、時歪の因子だったんですね」

はっと顔をあげた彼――ルドガーは、目が合った瞬間に視線を逸らした。少しだけ、胸が痛む。

「…知ってたのか? ここが、分史世界だってこと」

知ってたわけないじゃない、と心の中でだけ呟いて、彼には苦笑を返す。
――おかしいな、と思ったのは街中でルドガーとすれ違った時。ああそうだったんだ、と気づいたのは、この部屋を訪ねてきた彼の思いつめた表情を見たとき。
確かに、少しゲームとは違う進みをしてるな、と思っていたけれど、それはここが分史世界だったからなのだ。気付こうと思えば気づけたのかもしれない――と思ったところで、別の可能性に思い当たった。

私のせいなんじゃないだろうか?

もしかしたら、私という異分子が飛び込んでしまったせいで、この世界は正史から外れてしまったのかもしれない。大いにありうる話だ。
いや、きっとそうなんだろう。だからこそ、私が時歪の因子。それはちょっと、いや、だいぶ…申し訳ない。

長い長い沈黙の後、ルドガーがこちらに目を向けた。
それを合図に、私は腰掛けていた椅子から立ち上がって、座るよう勧めても立ち尽くしたままだった彼の前に歩み出る。
戸惑うルドガーを尻目に、ゆっくりと目を伏せる。
――やっぱり、申し訳ないなあ。
窓の外、暮れる日の中、帰途につく人々。夕飯の支度を進めるどこかの妻や母。明日のことに思いを馳せる誰か。たくさんの命。その全てを私のせいで喪わせるのか。

ルドガーが外殻を纏う。まっすぐにこちらを見つめていた。別に、逸らしたって構わないだろうに、そうして真摯な彼に、本当に申し訳なく思った。
ごめんね。心の中でだけ呟く。
私なんかが来てしまったせいで、消されなくてはならなくなった、この世界の全ての人たち。そして、こんなことをさせなくてはならないルドガーにも。

あなたは、きっと真面目で優しい人だから。こんなこと、きっとつらいだろう。
自分を責めすぎてはいないだろうか。すべてを一人で抱え込んでしまっていないだろうか。私なんかが心配することではないと思うけれど、弱音を吐くのが苦手なあなただから、少し不安にもなる。
槍の切っ先が、まっすぐ胸に向けられた。少しだけ震えている。槍も、私の体も。
大丈夫だよ、と声をかけてあげたい思いがこみ上げた。抱きしめてあげたい。
けれど、私はそれをしてはいけないのだ。私はただの時歪の因子なのだから。

躊躇う槍の柄をつかみ、穂先を私の胸に定める。ルドガーが目を見張り、ぐっと唇を噛んだ。
槍が、体にうずめられていく。
――ああ、やっぱりあなたは優しいね。見知らぬ誰かの死すら、そうして悲しんでしまうほど。
そう、そんなあなただったから、私は。

…それにしても、最期に見るのが、あなたの顔だなんて。
この世界を破滅に追いやった自分にしては、過ぎた最期だな、と笑った。
私のせいで喪わせてしまう人たちには申し訳ないけれど――私はここに来てよかった。とても幸せだったから。こんなにも人を愛し、人に愛されたことなど初めてだったから。

胸の痛みが鈍ってきた。体から流れていく赤と一緒に力が抜けていく。
崩れ落ちる体を支える腕があった。重たい目蓋を持ち上げて見れば、彼がひどく苦しげな顔をしている。そんな顔をしないで。願いを込めて必死で笑う。

「名前を、」

擦れた声。聞きなれた彼の声。

「教えてくれないか。…呼ばせてくれ」

強く手を握られる。
そんなことを聞くなんて、もしかしたら知っていたのだろうか? けれど私は知らぬふりをして、笑って首を横に振る。

「…教えて、あげない」

世界が割れる音がした。傷ついた表情の彼がひび割れる。
これでいい。これ以上、あなたがなにかを背負う必要なんてないのだから。
あなたは今、誰かも知らぬ女を喪うだけ。それでいい。

それで、いい。



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そして 誰かと倖福は死んだ

お題サイト「選択式御題」様

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自己紹介:
関東圏在住の看護学生。
好きなものはゲーム(特にRPG,SRPG)、漫画(ジャンプ系)、映画(邦画より洋画)。オヤジ好きで声フェチ。
最近は悟りを開き、趣味をオープンにしてます。
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