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ANIMO Blog

よしなしごとを、そこはかとなく書きつくる。

2024'05.10.Fri
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2012'12.17.Mon
ワンピースフィルムZ見てきてワンピース熱が燃え上がっています。

そんなわけで、映画とは全く関係ないキャラではありますが、シャンクスの短編ができましたので晒します。
…もうちょっと妖しい感じの内容にしたかったんですが…結果はこんな感じです。撃沈。

以下、爽やかさ皆無の変態寄り(?)なシャンクスでも受け入れられる方だけどうぞ!

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その娘は、東の海のとある島で、涙をこらえるように水平線を睨みつけていた。



「気づいたら村にいた?」

酒場でいつものように酒と食事を楽しんでいたシャンクスは、ふと先日岬で見かけた少女のことをマキノに問いかけてみた。そして得られたのが先ほどの回答だ。
誰も知らないのだという。彼女がこの村に訪れた経緯を。そう、誰も―――彼女本人でさえ。

「ここへ来る前のこともよく覚えていないみたいで。今は、村長さんが用意した家で暮らしてるはずよ」

ねえ、とマキノはシャンクスの隣に座り、いつもの“宝払い”で食事をするルフィに話を振った。
なんでルフィに聞くのかと不思議に思ったが、村の中で彼女と一番親しいのがルフィなのだという。この少年特有の人懐っこさ―――厚かましさ、とも言い換えられるが―――で、彼女とも交流を深めたらしい。
聞けば、彼女の家にお邪魔して話をする仲だとか。この少年の押しの強さに負けて招き入れているのかもしれないなと、気が弱そうに見えた少女の横顔を思い出す。

「あいつ、ほとんど家から出てこねェんだ」

家以外で見かけたことねェ、とルフィが言う。マキノも、食材の買い物など必要時以外で外に出ている姿を見たことはないとのことだった。シャンクスは、おや、と思う。
しかしそれを彼らに告げることはせず、へぇ、と呟くに留めて言葉を酒ごと飲みこんだ。



初めて見た時と同じ夜更け、村から少し離れた岬。暇つぶしに持ってきていた酒瓶にそのまま口をつけながら待てば、少しして彼女が現れた。華奢なワンピース姿、頼りなく細い肩に淡い色のストールをかけて。
少女は岬に立ち、いつかと同じように海を見つめていた。それ以上の動きが見られないことを確かめ、シャンクスはゆっくりと彼女に歩み寄った。

「よお、お嬢さん。なにか海に恨みでも?」

はじかれたように振り返った少女の髪が躍る。驚いて丸くなる瞳が、星月の光できらりと輝いた。
―――目を、奪われる。
怯えに歪む眉。震えた肩に落ちた髪。絶世の美女ではない。女の魅力を特別感じさせる容姿ではない。
だが、その頼りない体と、汚れなど知らぬように光る瞳の揺らぎが、シャンクスの中に図々しいほどに入り込んできた。

財宝だ、と思った。目の前の少女は、海賊である自分が手にするべき宝だと。

少し興味を抱いたから話しかけてみよう、という気しかなかった。もともとは。しかし今は違う。
自然、口元に浮かんだ笑みのせいだろうか。少女の表情が体が恐怖をこちらに伝えてきていた。ああ、まずい。シャンクスは苦笑して、がりがりと頭をかいた。

「あー…い、いきなり声かけて悪かったな。おれは別に怪しいもんじゃ、」

しどろもどろになりつつ逆に怪しすぎる口上を口にする間に、少女がぱっと駆け出す。あ、と思うだけで呼び止めることも追いかけることもできなかった。
一人残されたシャンクスは、しばらく走り去る少女の背を見ていた。やがて我に返り、酒を煽って海を見る。思い詰めたように海を睨む少女。またここへ来るだろうか。…難しいかもしれないな、今夜、こんな怪しい男に声をかけられたのだから。
そうしたら、違う方向から責めていくしかない。



「…え、と…ルフィくん、そちらの方は…」

いつものように家に訪ねてきたルフィを、なんの疑いもなく迎え入れた少女は、その後ろに続いて入ってきたシャンクスを見て顔を真っ青にした。随分怯えられたものだ。
勝手知ったる家か、部屋の中央に置かれた二人掛けのソファに飛び乗ったルフィは、屈託のない笑みで答える。

「シャンクスだ!」
「…シャンクス…さん」

名前を呼ばれるだけで騒ぐ何かがあった。しかし、ここでこれ以上怖がられるわけにもいかない。
平常心、と自分に言い聞かせてなるべく穏やかに笑顔を作った。

「こんにちは、お嬢さん」
「こ…こんにちは」

ルフィを介しているせいか、それともここが逃げ場のない自宅であるせいか。怯えた表情を見せながらも、彼女は逃げずにシャンクスを見ている。ああ、いいなこの作戦は。思わずにやついてしまったシャンクスを、ルフィが気持ち悪げに見やった。

「シャンクス、なに笑ってんだ。きめェぞ」

言葉にされた。
ひでーな、と笑うシャンクスだが、少女はルフィとシャンクスを見比べてあたふたしていた。

「ル、ルフィくん、そんな失礼なことを…」
「?」
「あーいいんだ、お嬢さん。こいつの失礼は今に始まったことじゃない」

正直一発げんこつをくれてやろうかと思っていたが、彼女に庇ってもらえる状況を設けてくれたのだと考えると逆にルフィに感謝したくなった。
まあ、きめェはやっぱり頭に来たので、後で一発殴る。

「なあ、なんかジュースあるか?」
「あ、うん。冷蔵庫に…あと、戸棚に村長さんからもらったカステラも…」

聞き終わる前に、ルフィは台所の方へ走って行ってしまった。冷蔵庫の開閉音、なにかをがさがさと探る音が聞こえてくる。
マキノが言っていた通り、二人はなかなか仲が良いらしい。ルフィが行ってしまった方を見ている彼女の表情は穏やかだった。初めて見るリラックスした表情だ。それを見て少しほっとしたのもそうだが、ルフィに対する羨ましさが勝っている。

「…おれのこと覚えてるか、お嬢さん」

少し焦れて、蒸し返すつもりのなかったことを口にすれば、びくりと肩が震えた。視線がこちらに戻される。そこに宿る感情は、やはり怯えだ。先ほどの穏やかさがないのは少し残念だが、しかし、こちらもなかなか捨てがたい。
そんな不穏なことを考えているとは思わせないように、シャンクスは人懐っこい笑みを浮かべた。

「あ…あの、私、」
「ああ、別に責めてるわけじゃねェんだ。あれはおれが悪かった。怖かったよな」

ひらひらと手を振り、申し訳なさげに眉を下げる。シャンクスのそんな表情に、彼女は戸惑ったようだった。助けを求めるようにルフィが引っ込んだ先を見るが、救いの主はきっとあちらで取り出したカステラでも頬張っているのだろう。シャンクスは、申し訳ない、と口にしながら距離を一歩つめた。はっと振り返った少女が体を固くする。まるで小動物だ。

「どうして、夜に一人であんなところへ行ってた? 危ねェだろ」
「………」
「―――海に、なにか恨みでも?」

同じことを問う。少女の目が奇妙に歪んだ。震える唇がかすかに開かれ、細い息が音をなす。

「ん?」

シャンクスはもう一歩、近づく。手を伸ばせばぎりぎり届くほどの距離。今はこれまで。これ以上つめれば、この宝は背を向けて逃げてしまうかもしれない。

「か、…帰りたい、と、思って」
「帰りたい? …お嬢さん、記憶がないんじゃ」

マキノさんからそう聞いたが、と呟くと、少女はかすかにではあるが首を横に振った。
まるで尋問でもしている気分だ。シャンクスはそう思いながら、目をそらさずにじっと少女を見つめ続ける。

「帰りたい、けれど…どうしたらいいか、わからない」
「…それは、どういう…?」
「海のどこにも、きっと、私の場所は、もうない」

心細く震える小さな声。

「どうしたらいいのか、わからない…私は、もう、どこへも、帰れない…」少

女の目から涙がこぼれる。背筋を何かが駆け上っていく。
これは恋慕なのか。いや、違うはずだ。ただの興味。まだそのはずだ。まだ。
そう自分に問いかけ、答えながら、シャンクスは腕を伸ばした。逃げ出そうとする宝を腕の中に抱き込む。逃がすつもりはない。頼りない抵抗は、少し力を強めるだけで抑え込めた。

「目を閉じろ、お嬢さん」

耳元でささやいた声に、少女が反射的にシャンクスの服をぎゅっと握りしめた。目を閉じろ。もう一度言えば、彼女の目蓋が素直に落ちる。

「わからないなら、今はなにも見ないでいい。お嬢さんを抱きしめる、おれの腕はわかるか?」

恐る恐る頷く少女の耳が、首が、赤く染まっている。シャンクスは少女が見ていないのをいいことに、こみ上げる感情のままの笑みを浮かべた。警戒心が強いのに、なんて無防備なんだろうか。

「今はここにお嬢さんがいて、お嬢さんを抱くおれがいる。それだけで大丈夫。しばらく考えるのはお休みだ。―――な?」

シャンクスには、少女の素性が分からない。だから、彼女がまるで親の仇のように海を睨みつける理由など予測もつかない。ただ確かなのは、この少女が何かをひどく恐れ、そして絶望しているということ。それゆえ、周囲のすべてに否定的になっているということ。―――ルフィだけはその殻を破りかけているようだったが。
しかしそれは、きっと、一番近くにいたのがルフィだからだったに過ぎない。縋るのはおれでもいいはずだ。一番がおれにだってなりえるはずだ。
だから少女の体を抱きしめたまま、シャンクスはじっと待った。近づくのはこれまで、ここまでで十分。この宝はきっと、自分からこの手に堕ちる。そんな確信があった。

待つシャンクスの腕の中、少女が息を吸い込む。
こてり、と力が抜けたように、首が縦に振られる。
体から力が抜けていき―――微かな「はい」の答えを得る。

ああ、ほら、見ろ。
孤独な少女は自ら縋った、彼女を狙うこの海賊に。その危うさにめまいがしそうだ。
シャンクスは腕に感じる少女の熱に目を細める。なんて頼りないんだろうか。なんて。小さく、弱く―――離しがたい。

これは恋慕か。いや、まだ違う。欲しくてたまらないだけ。この危うく弱弱しい少女の正体を知りたいだけ。
今はまだ、ただそれだけ。


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「アレが欲しい」と哂う支配者

お題サイト「不在証明」様

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趣味:
ゲーム
自己紹介:
関東圏在住の看護学生。
好きなものはゲーム(特にRPG,SRPG)、漫画(ジャンプ系)、映画(邦画より洋画)。オヤジ好きで声フェチ。
最近は悟りを開き、趣味をオープンにしてます。
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