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ANIMO Blog

よしなしごとを、そこはかとなく書きつくる。

2024'05.11.Sat
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2012'12.01.Sat

100万打のお礼、というわけではないのですが、短編をひとつ。

連載でしばらくリーバーさんが出せないことに私がしびれを切らしました。連載のちょっと未来のリーバーさんと夢主のお話です。
今後の展開のちょっちしたネタバレ…なんだろうか。いやたぶんみなさんわかってらっしゃると思うし、大したこっちゃないとは思うんですが…不安な方はスルー推奨で…!

では、リーバーさんの短編習作。読んでくださるという方は続きからどうぞー。


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薄暗い自室、スタンドライトの灯りが煌々と手元だけを照らしだす。気付かぬうちに日が暮れ、人が寝静まってどれほど経ったのだろう。やっと一区切りついた机上の仕事を片しながら時計を見る。23時47分。もうすぐ日付が変わる時間だった。
道理で腹も減る、と自分の仕事中毒具合に苦笑を浮かべながら席を立つ。袖をまくりあげたワイシャツにしわの寄ったスラックス、ぼさぼさの髪―――科学班班長の威厳など微塵もない装いだが、そんなものは元々ないと思っているし、なにより室長でさえアレなのだ。そもそもこの時間、人に会う可能性も低いだろうと、リーバーは部屋を出た。

相当数の人間を納めているはずの塔は、静けさの中にあった。まるで人など全て消え去ってしまったのではないかと思うほどに。
そんなことはあるはずがないし、恐らくラボにはまだ起きて仕事に励んでいる部下たちがいるはずだが。

「…リーバーさん?」

おさえた呼び声が背中側からかけられる。振り返ると、暗がりの中に小さな人影があった。ここからは影に入って顔など見えないが、彼女の声を聞き違えるはずもない。お互いに歩み寄った。距離が近づき、見慣れた少女の笑みが目に映る。

「帰ってきてたのか」
「はい、少し前に。リーバーさんは…」
「部屋で仮眠をとってたんだ」

だらしない格好を見られたことに気恥ずかしさを覚え、髪を手櫛で整える。すると、そうなんですか、と頷く彼女がふと口をつぐんだ。それから苦笑を浮かべて細い指を伸ばし、頬に触れる―――。

「仮眠をとるなら、しっかり眠らないと」

彼女が触れたのは、髪をかき上げる手だった。遠ざかる白い指先に黒いインクがついている。

「また、無理をしてるんじゃないですか?」
「自分の限界はちゃんと知ってる。お前が心配することじゃないさ」

困ったように笑っていた彼女は、少し眉を寄せて俯いた。指先のインクを親指で拭うが、黒は消えずに広がるばかりだ。
ぼそりと彼女が何かを呟く。聞き返すが、彼女は答えなかった。

「…どこか、行くんですか?」
「え? ああ…小腹がすいたから、食堂にでもと思って」

彼女が、一緒に行ってもいいですか、と微笑む。

「報告は?」
「終わりました。室長室からの帰りだったんですけど…私も、少しお腹が減ったから」

断る理由があるはずもない。頷けば、彼女が隣に並んだ。
記憶の中にあるよりも、少しだけ距離の近づいた瞳。記憶の中にあるよりも、細くなった頬から顎のライン、あの頃と変わった髪型。このふとした違いに気づくたび、少女は、いつまでも少女のままではないのだと思い知らされる。

食堂につくと、彼女が先に厨房へはいった。
夜中に帰るエクソシストや、夜まで仕事をしている塔内の団員のために、とジェリーはいつも何かを用意して専用の冷蔵庫にいれておいてくれる。今日も多分、なにかあることだろう。
何を食べますか、と聞く彼女に、なんでもいいと答える。夜食用の冷蔵庫を覗き込む彼女を、食堂側のカウンター越しにぼんやり眺めた。さっきの会話、なんだか夫婦みたいだな。そんなことを思う自分に苦笑を浮かべるが、肩越しに振り返った彼女と目があった瞬間、

「ど…どうしたんですか、リーバーさん。BLTサンド、苦手…でしたっけ?」
「…そんなことない、が…なんでだ?」

だって怖い顔、と不安げな声がする。息を呑んだ。少しこわばった頬を持ちあげて笑顔を作る。それでいいよ、と言えば彼女はほっとしたように目を細めた。
厨房から出た彼女と、だだっ広い食堂の隅、向かい合って座る。自分の手元にはBLTサンド、彼女の前にはヨーグルト。それだけかと問えば、夜中に食べ過ぎると太るからと苦笑が返された。
女の子だな、と茶化すとむっと寄る眉。幼いその表情に何故か安堵する自分に気づき、喉を通るBLTサンドがいきなり固い何かに代わったような感覚に陥る。うまく飲み込めず、咳きこむリーバーに彼女が立ち上がり、慌ててこちらに回ってきた。

「大丈夫ですか? お水、どうぞ」

片手で背中をさすり、もう片手でグラスを手渡してくる。それを受け取るとき、不意に甘い香りを感じた。彼女の髪の香りのようだ。手が震え、彼女の指ごとグラスを掴む。その細さ、指先に残るインクの黒と肌の白のコントラストに息を呑む。咳とは違うところから来る息苦しさに支配される。
少女のままではいられない少女は、男すらも変えるのだろうか。だとすれば、なんて恐ろしく、厄介なことだろうか。変化など望んではいない。このままでいいはずだ。だが、

「…リーバーさん?」

自分たち以外、人がいないような静寂。その中でやわらかく囁きかける声が意識を揺さぶる。それは、何かが砕けていく音に似ていた。


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孵化する音が聴こえないか

お題サイト「それでは、これにて」様より

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関東圏在住の看護学生。
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最近は悟りを開き、趣味をオープンにしてます。
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