昨日ほど、自分の妄想力に感謝したことはない…あえて言おう、私グッジョブ!
何があったかと言いますと、昨日の夢の中にクロコダイルが出てきましてね。話しちゃったし、一緒に歩いちゃったし、あまつさえ笑顔なんか向けられちゃったんだぜ…!
ありがとう、私の脳みそ。おかげで朝起きた瞬間からテンションMAXだった。万歳。
そんな私のクロコダイル萌えとは無関係に、小話第四段は引き続いてDグレ! ジャンルは違えどハイなテンションを引き継いでいるせいか、私には珍しくちゃんとした逆ハー風味、な気がしなくもない。
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宿に戻り、部屋の扉を開けた途端に漂ってくる匂い。慣れてきたとはいえ、思わず顔をしかめずにはいられなかった。
今朝から降り通しの雨の所為で暗いが、時間的にはまだ夕暮れ前である。しかし、ソファに座って酒を傾ける彼女の師匠はすでに出来上がっているようだった。
一体いつから飲んでいたのかと溜息が出るが、言っても聞かないことは既によくわかっている。だから、下手に刺激はしないよう、夕食の時間までどこかで時間でも潰してこよう。そう思って、再度部屋を出ようとドアノブに手をかけた時だった。
「おい」
擦れた低い声に呼びとめられる。
「…はい」
「来い」
ソファの背もたれにだらりと頭を預け、こちらを見て手招きをする酔っ払い。無視して部屋を出てしまうことは可能だろうが、そうすると後が怖い。逃げ場はあるのに四面楚歌、渋々クロスに近づく。酒の匂いに混じって、タバコの香りもツンと鼻をついた。
しかし、自分で呼んだくせにクロスはそれきり何も言わず、ジロジロと眺めまわすばかりである。恥ずかしいというよりは気味が悪い。多少と言わず腰が引けた。
「あ…あの、師匠?」
「…ま、及第点か」
「は? なに―――っ、を!?」
グラスを持たない方の腕が伸ばされ、ガッと腰に回される。そのまま力づくで引っ張られ、尻もちをついた先はクロスの隣だった。
一瞬の出来事で理解が追いつかない。やがて、段々と現状を把握してきた頭に血が上っていった。なんだ、この状況。
「な、ななな、な…師匠!?」
「うるせーな、耳元で…」
腰を離れた手は肩に乗せられている。重い。が、今はそんなこと、わりかしどうでもいい。
「じょ、状況がよくっ…」
「ぁあ? 状況? 見りゃわかんだろ」
「わかりません!」
「だから、耳元で大声出すんじゃねぇよ」
と、突然グラスを口に押し付けられた。突然のことに、口に流れ込んできた液体を呑みこんでしまう。
テーブルの上にはウイスキーのボトル。
「…!」
喉が焼けた。
「ったく、興がさめんだろうが。いいから黙って酌しろ」
「げほ、しゃ、酌…です、か?」
酌だ。クロスが呟く。
喉の違和感に咳きこみながら、おやと思ってクロスの横顔を見る。何やら、機嫌がいいようだった。
窓の外、雨空を見ながら酒を傾けるクロス。そんな彼の喉仏が上下する様をぼんやり見やる。
「おい」
横目で睨まれた。はっとしてテーブル上のボトルを掴み、空になったグラスに酒を注ぐ。クロスは、ふん、と鼻を鳴らしてウイスキーを喉へ流し込んだ。
―――喉、痛くならないんだろうか。
そんな疑問を孕んだ視線に気づいたのか、彼はおかしそうに笑った。
「お前とは違う」
「…はあ」
気の抜けた返事を返すと、催促するようにグラスが持ち上げられる。慌てて注ぎ足した。
―――何やってるんだろうか、私…。
この人に付いて大分経つが、未だに何を考えているのかいまいち掴めない。自分勝手で傲慢、男はもちろん子供相手にもわりかし容赦がなく、美人だけは大切に扱う。酒癖が悪く、金は手元に貯めておかず借金まみれ。全くもって駄目な大人だ。
そんなこと分かり切っているのに、大人しくこの人に付いてきて、挙句隣で酌をしているのは―――。
「お前、なんか失礼なこと考えてんじゃねぇだろうな」
「へ、あ、はっ…」
「なに変な声出してやがる」
図星だったか、と言ってクロスはまた笑う。
やはり機嫌がいいようだが―――理由はまるで分からない。それがなんだか寂しいような、悔しいような気がした。いつか分かる日が来るのだろうか?
「…師匠」
「なんだ」
「…いえ、やっぱり、なんでもありません」
クロスは、視線をうつむけた弟子をちらと見ただけで、言及するでもなく先ほどまでの通り振る舞った。ただ、肩に回る手の力が少しばかり強まった気がする。
彼を理解する日など、いつまで経っても来ないのかもしれないが―――彼と一緒にいる理由は、もしかしたらこういうところなのかもしれない。興味などないように見せて、やすやすとこちらの不安を見透かす。その上で甘えさせるでも、突き放すでもなく、必要な時だけ背中を押して、後はただじっと見届けてくれるあたたかさを知っているから、憎みきれないのだろう。
「そのボトルで酒のストックが切れる。そしたら―――」
「大丈夫です。さっき、買ってきましたから」
今度はまっすぐに顔を覗きこみ、クロスは満足そうに笑った。上出来だ、とエクソシストの修行などとはまるで違うことで褒められても嬉しくはないのだけれど、と苦笑を浮かべ返す。
「…でも、今日はもう、このボトルだけにしませんか?」
少し遠慮がちなたしなめに、顔がしかめられる。怒らせてしまっただろうか、と身を固くするが、やがて聞こえてきたのは小さな溜息と呟き。
「全く…口うるさい弟子だ」
その日、彼がグラスに注がせたのは、残り3杯分のウィスキーだけだった。
茶会の他愛ない話、旅の昔語りとして彼女がぽつぽつ口にした内容に、4人はそれぞれ微妙な表情を浮かべる。
「今思うと、雨だったから気分がよかったのかも、って。雨が好きみたいだから」
理由は知らないけど、と結んで顔を上げると、アレンが眉を寄せていた。
「僕が合流する前の話?」
「うん、そうだけど…」
「…教団にはセクハラ撲滅委員会とかないのかな。あるなら僕、真っ先に加入するのにな…」
「セ、セクハラ…多分師匠は、そういう下心があったわけでは…。あ、と、サーバーに紅茶がなくなっちゃったから、淹れてくるね」
困ったような笑みを残して奥に消えていく姉弟子を見送るアレンの口から、思わず溜息が漏れた。
その肩を、なだめるようにラビが軽く叩く。
「しかし、姫ってちょっと危機感に欠けてね? ジャパニーズってそういうもんか?」
「俺に聞くんじゃねえ。あいつはまた別だろ」
「クロス元帥に対しては、特にガードが甘いみたいだから…」
「あー、ヒナの刷り込み的なもん? そういや、班長に対しても警戒心てもんが皆無さー」
あの二人に関しちゃ、見ててほのぼのするからいいけど。ラビは音を立てて紅茶をすすった。
「でも、クロス元帥相手にそれはマズイよな。うん」
「………どうでもいいだろ」
眉間にしわを寄せて呟いた神田に、ラビがじっと視線を向ける。気付いた彼は、さらに不快そうに顔をしかめてラビを睨みつけた。
なんだ、と問われたラビは、頭の後ろで腕を組んでにやーっと笑う。
「そういや、ユウにも懐いてんな? 姫」
「あ?」
「まさかお前も、組み手と称して手とり足とり、あーんなことやこーんなことを」
ひゅ、と鋭く風を切る音がした。宙に舞った自らの赤い髪を見て硬直し、リナリーは神田の名前を鋭い声で呼んだ。
器用にも椅子に座ったまま抜刀した神田は、六幻の切っ先をラビの鼻先からピクリとも動かさない。
相変わらず冗談の通じない、と頬をひきつらせたラビの視界に、助けの手が差し伸べられた。サンキュー、アレン―――と笑おうとした表情は、しかしまたもひきつってしまう。
「聞き捨てなりませんね。神田…あんなことやこんなこと、そんなことまでしてるんですか?」
「お、落ち着けアレン、落ち着くさ! そんなことまでやってるかどうかはまだ分かんねぇ!」
「あんなこともこんなこともしてねぇよ」
アレンの左手の指が、六幻のしのぎをぎりぎりと押さえつけている。眼前で震える切っ先に、ラビはゆっくりと席を立った。呆れ顔で紅茶を呑むリナリーの隣に並ぶ。
ちらりとラビを見た彼女は、苦笑しながらクッキーに手を伸ばした。
「止めねえの?」
「本当に危なくなったら止めるけど。家具とか壊しちゃったら悪いし」
神田はいつの間にか六幻を鞘に納めていた。一応、部屋の主に気遣って自粛するだけの理性は持ち合わせているのだろうか? さきほどの一閃は、ともかくとして。
件の人が、奥からサーバーに紅茶を淹れて戻ってくる。彼女はアレンと神田を見て目を丸くし、ラビとリナリーに近づいて声をひそめて尋ねた。
「…2人はどうしたの?」
「お、姫。いや、どうしたっつーか…」
ラビは苦笑して肩をすくめた。
「…姫は愛されてんなーって話?」
「…はい?」
ホントのことさ、と片目をつぶって見せれば、相手はふいと横を向いてしまった。照れているらしく顔が赤い。
あー、なんだろう。きゅんとしたっていうか、なんて言えばいいんだコレ。
「…萌える?」
「そこのバカウサギ。人の姉弟子を変な目で見ないでもらえますかねぇ?」
釣られてちょっと熱くなっていた頬から、一気に血の気が引いて行った。振り向くと白い悪魔。
「ちょ…ア、アレンさん、目がマジなんですけど」
「ええ、マジですから」
目の前で繰り広げられる騒動にどうしようかと立ち尽くしていると、リナリーがにこにこと笑って袖を引いてきた。隣の椅子を勧められるままに腰を下ろす。
「大丈夫よ。皆、暴れたりはしないと思うし。万が一暴れ出しても、私がすぐに止めるから」
「あ…ありがとう、リナリー」
止めるってどうやって、と聞くののは愚問だ。彼女は黒い靴を履いている。
せめて平和的に終わってくれれば、と思いつつ3人を見た。いつのまにかどうでもいいけなし合いに発展して一向に終わりを見ないが、まあ、賑やかなのは嫌いじゃない。
「…そういえば、どうしてマグカップなんて持っているの?」
「え? あ―――そうだ。ごめんなさい、ちょっと席を外しても、いい?」
「ええ、構わないけど…」
不思議そうに、マグカップに紅茶を注ぐ手元を見てくるリナリーに、首をかしげて笑う。
それを見てピンときたリナリーは、未だ騒がしい3人を見て苦笑した。
扉の向こうにこそ、用心するべき人がいるんじゃないかしら、と呟いて。
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Dグレの小話が一番考えやすいかもしれない…ということで、またも続きます。
本編でこんな風にティーンズ相手に逆ハーっぽくなることは、多分ないと思われますが。そこはIFということで!
好きなものはゲーム(特にRPG,SRPG)、漫画(ジャンプ系)、映画(邦画より洋画)。オヤジ好きで声フェチ。
最近は悟りを開き、趣味をオープンにしてます。