それでも、日々の活力の一端にでもなれればいいなぁ、と思いつつ、糖分五割増し(※あくまで当社比)で何本か書かせていただきます!
第一弾は、当サイトの看板(?)連載、Meaningの夢主設定の小話。
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【銀髪の軍人の場合】
以前は振り回されるままだったが、近頃は慣れたというか、達観したというか、適当にあしらわれている感が否めない。書類に追われる奴の周りをうろちょろしても、特に動じてくれない。
「お戯れが過ぎますよ。どうか、大人しくお戻り下さい」
余裕な態度が若干ムカついたため、奴が大事に持っている奥さんの写真を、ノルドハイムの着替え生写真にすり替えておいた。秘蔵の一枚だ、存分に悶えろ。
【陰険眼鏡軍人の場合】
部屋で何をしていようと我関せずを貫き通す。
それはそれで居心地がいいのだが、奴は恐らくこちらの存在を認知すらしていない。大気中のチリレベルで無視されていることを思うと面白くない。
ので、奴のスペアの眼鏡全てに、満遍なく指紋をつけてやった。
翌朝(かわいい方の)サフィールの背に、油性ペンで「ブタ肉」と書かれているのを見つけた。減俸にしてやる。
【黒髪の女軍人の場合】
「今度はなにをなさったんですか」
部屋に入ると、執務をこなしていた女が顔を上げないままそう言った。
手は止めず、苦笑を浮かべて続ける。
「少将が大分疲れた顔をなさっていましたよ。大佐も、地味に機嫌が悪いようでしたし」
「さあ、俺は知らんな」
溜め息を吐かれた。
「俺を疑うのか?」
「疑ってはいませんよ」
執務机にどかりと座り、手元を覗き込む。確認終了のサインを書き終えた所で、やっと顔を上げた。
「確信しているだけです」
「そうか。俺のことを理解してくれているとは…愛だな?」
呆れた視線に笑みで返せば、やがて観念したように笑顔を見せる。
「それで。そんな愛情深い臣下に、今度はどんないたずらをなさるお積もりで?」
「そうだな…」
思いつかん、と言ってみせたピオニーに、きょとんと目を丸くする。余り見せない幼い表情に思わず吹き出せば、相手は咳ばらいをしていつもの調子を取り戻した。
「なんだ、そんなに意外か?」
「方々から、最近の陛下は暇を持て余して何をするかわからない、気をつけろ…と言われておりましたので。平和がゆえの弊害だ、と」
心外だ。ピオニーは片眉を持ち上げてみせた。
「俺は心底楽しいんだがな」
「…それは、好き勝手なさってますから、そうでしょうけど」
「違う」
何が違うのか、と首を傾げてると、ピオニーがついと後ろを指差す。振り返ってみると、そこには付き合いも長い愛刀が置かれていた。
次いで彼は、机の上の書類とペンに指を向ける。
「…ああ」
なんとなくわかった気がして、思わず笑みがこぼれた。
執務机にぶらぶら足を投げ出して座る主君に注意をする気もすっかり失せた。いや、元々、今さら言っても仕方ないと思ってはいたけれど。
こちらからちらり見ることのできるピオニーの表情がとても満ち足りたものに思えて、なんだかそれが自分までも嬉しくさせた。刀を置いて、執務机にかじりつく軍人など、はたから見たら情けないものではないかと思うのだけど―――それでも、それを喜ばしいことと感じてくれる主君がいるのだから、悪くはない。
「…私は、陛下のそういうところをお慕い申し上げていますよ」
ぽろり、と何のことはなく零した本音に、ピオニーの足の動きが止まる。珍しく本気で驚いたような顔で振り返った彼は、一度息を呑みこむと、やがてゆっくりとその表情をにやりと歪めていった。
まずいことを言ってしまったかもしれない。気恥ずかしさと若干のやってしまった感を抱きつつ、とりあえず距離を取ろうと椅子から腰を浮かす。が、片手で肩を抑えつけられた。
「あー、その、陛下。今、紅茶をお淹れしますので、手を」
「なに、気にするな。ところで、たった今、愛情深い臣下に対するいたずらを思いついたところなんだが」
「謹んで辞退いたしますから。どうぞ、他の忠誠心篤い臣下に」
「まあまあ、そんな遠慮するなって」
遠慮ではないのだが―――。どうしたものか、と視線を泳がせるうちに、肩を押さえる手とは別の手が首から頬を撫で上げた。そこにいやらしさは感じられない。ピオニーの目を見ると、彼は本当に嬉しそうに穏やかな笑みを浮かべていた。
毒気を、抜かれたとでも言うのか。体に込めていた力を抜いてしまうと、ピオニーはまた少し驚いたようだった。それを苦笑に変えて、手を放す。改めて顔を覗き込んで囁くように言った。
「本当に俺は、心底、今の状況が楽しいよ」
「お楽しみのところ、大変申し訳ありませんがねぇ」
突如響いた第三者の声にピオニーが身を引くより早く。彼の背後から伸びた手が、ピオニーの頭をわしづかみにした。
「いででででで、おい、痛い痛い、おま、これ本気だろ…!」
「おや、“愛情深い臣下”の可愛らしい“いたずら”ですよ。お楽しみいただけてませんか」
「…ジェイド、貴方は一体いつから…」
根っからのインドア派に見せかけてそこは軍人、大分強い握力で皇帝陛下の頭を絞めつけながら、ジェイドはにっこり笑う。ああ、機嫌が悪そうだ。こういうときは、下手に突っつかないに限る。椅子ごと身を引いて2人と距離をとりながら、とりあえず傍観することに決めた。
「つい先ほど、私の執務室に軍の経理担当が来ましてね。なんでも私を、一ヶ月の減俸に処す、だそうですよ。彼もかわいそうに、理不尽な下命に涙まで浮かべてましたねぇ」
「そりゃお前への恐怖でだろ。…あででででっ、この陰険眼鏡…!」
やっとのことでジェイドの魔の手を振り切ったピオニーは、目じりに涙を浮かべながらも不敵な笑みを浮かべる。
「なんだ、給料減らされたのがそんなにショックか? それとも、いい年して嫉妬か?」
「陛下、ですから貴方はなんでそう煽るような…」
溜息を吐いた部下をちらりとみやってから、ジェイドは眼鏡をついと押し上げた。
ええ。なんでもないように頷くと、ジェイドは目を丸くする2人を見て余裕の笑顔を見せる。
「いい年の大人らしからぬ嫉妬をしていますが、それが何か?」
「………。お前、」
絶句していたピオニーが我に返り、やれやれと肩をすくめる。まだ硬直の解けないもう一人を見て苦笑し、執務机から下りた。
「ここ数年で更にタチが悪くなったんじゃないか?」
「お褒めにあずかり光栄です」
「ホントにいい耳してやがる。―――それじゃ、邪魔したな」
書類整理頑張れよ、と手を振るピオニーに呆然としたまま手を振り返す。不敬だ、というのは念頭になかった。そもそも、普段から肩肘ばった接し方をしているわけでもない、相手も特に気にした様子はなく去って行った。
その後に続いて部屋を出ようとしたジェイドが、扉に手をかけたまま振り返る。思わず居住まいを正す様に笑いながら、彼はいつもの底知れない笑みを浮かべた。
「手伝っていただきたいことがあるので、貴女は後ほど私の執務室へ来るように」
「…は、」
「返事は」
「了解、いたしました」
よろしい、との一言を残して扉が閉まる。やっと一人の落ち着ける空間が戻ってきたところで、深々と溜息を吐く。眉間を指でほぐし、再度息を吐き、のろのろと立ち上がる。
「紅茶を…いや、水だ、水を飲もう」
からかわれているのか本気なのか、それが問題だ。いや、どちらにしてもよろしくはないのだが。
冷静沈着が売りだったはずなのにな、と思いながら、コップに注いだ水道水を呑み下す。生ぬるいはずのそれが心地よい冷たさを持っているように感じるほどには、動揺させられているようだった。
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久々にMeaning主とピオニーを書いたらやっぱり陛下がセクハラ魔人になった罠。
イメージ的には連載終了後です。マルクト組は、いつまで経っても大人げない大人でいいよ!と思います。
好きなものはゲーム(特にRPG,SRPG)、漫画(ジャンプ系)、映画(邦画より洋画)。オヤジ好きで声フェチ。
最近は悟りを開き、趣味をオープンにしてます。